そんな感じで数日間も移動をし、ついに王都の入り口へとたどり着いた。辺りは賑やかな声に包まれ、石畳の道を行き交う人々の姿が見える。やがて馬車は、堂々とした王城の前に着き、ゆっくりと止まった。長旅の終わりを告げるように、微かな振動が伝わってくる。
「はぁ……長かった。」
俺は思わず息を吐いた。ここ数日間の馬車での移動は、快適な膝枕こそあったものの、検問や盗賊の襲撃といった不安要素も多く、常に気が抜けなかった。 ……とはいえ、心臓が一番跳ねたのは、ミリアのふとした仕草や言動だったかもしれない。
馬車が止まったからといって、それが目的地に着いた合図とは限らない。王都に入る時の検問や、ひどい時には盗賊の襲撃などで止められることもあると、窓の外を眺めていたミリアが教えてくれた。
「ユウヤ様、王城の前に着きましたよ」
ミリアの声が、耳に心地よく響く。平民の服を着たメイドと護衛が馬車のドアを開けてくれて、ミリアの降りる手伝いをしてくれていた。その優雅な所作に、へぇ~俺もミリアと付き合うなら覚えないとだよなぁ……なんて、ぼんやり考えていた。
馬車から降りると、王城の兵士が恭しく応接室に案内をしてくれた。広々とした応接室で待っていると、すぐに声が掛かり、王の間へと案内をされた。
「俺、初めてだから分からないんだけど……」
俺はミリアに小声で尋ねた。格式ばった場所に慣れていない俺は、どう振る舞えばいいか見当もつかない。
「平民なのですから分からなくて当たり前ですよ」
ミリアはにこやかに答えた。その笑顔は、俺の不安を少しだけ和らげてくれる。
「いや……王様だし。無礼だって言われて牢屋行きになるんじゃない?」
冗談めかして言ってみたが、心のどこかで本当にそうなる可能性も考えていた。前回の逮捕の件もあるし、貴族の常識は俺には理解できない部分が多い。
「他の者と同じ様にしてれば良いと思いますよ」
ミリアはそう言って、俺の腕をそっと握りしめた。その温かい感触が、俺に少しばかりの安心感を与えてくれる。
「そうだな……そうするか」
俺は深呼吸をして、王の間へと足を踏み入れた。重厚な扉が開かれ、広大な空間と、その奥に座る王の姿が視界に飛び込んできた。
王の間の大扉の前まで案内されると、兵士がすぐにその扉を開いた。 広々とした部屋の奥、ひときわ高い場所にある玉座には、王様と王女様が並んで座って待っている。 贅を尽くした装飾が施された室内には、圧倒的な威厳が満ちていた。俺は緊張しながら玉座の方へと歩みを進め、周囲の者たちが跪くのを見て、慌てて自分もそれにならう。 頭を下げたまま静かに待っていると、心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえてきた。
「薬屋は誰だ?」
王様の低く響く声が、しんと静まり返った王の間にただ一つ響き渡る。 ――この問い、俺が答えていいんだよな?
「あっ、はい。私です」
恐る恐る答えると、王様はすぐに本題に入った。
「そうか。挨拶は省こう。早速だが、城で薬を作ってもらえないか?」
いきなりの依頼に、一瞬頭が真っ白になる。
「……申し訳ありません。今の場所が気に入っておりまして」
俺は丁重に、けれどはっきりと断った。
「ただとは言わぬ。毎月、金貨二十枚でどうだ?」
――は? 二十枚? いやいや……うちの店なら二十日も開ければ、金貨六百枚は軽く超える。
「それでも、今の暮らしが気に入っておりますので」
再び頭を下げて、俺はきっぱりと断った。
「そうか……では、うちの末娘を嫁にやろう」
――は? いや、まあ……確かに可愛いけどさ。それで、ここに王女様がいたってことか。それにしても、平民の俺に王女を嫁がせるなんて……本気か? つまり、それだけの価値が俺にあると、王様は考えているということか。
「それは光栄な申し出ですが……申し訳ありません」
「それでも断るというのか? 無礼だぞっ! うちの娘を――要らぬと申すか!」
王様の声が少し荒々しくなる。
「婚約者がいるので……」
「なんだと? あの小娘か?」
王様はミリアの方にちらりと視線を向けた。
「はい」
「そこの平民の娘より、うちの娘の方が美しく、頭も良いぞ。それに娘を娶れば、お前を貴族にしてやってもいい」
王様はなおも言葉を畳み掛けてくる。
「それでも、婚約していますので――お受けできません」
俺は一歩も引かず、毅然と答えた。
「それでは、仕方あるまい……少し痛い目に遭わねば分からぬようだな」
王様が手を上げて合図を送ると、槍を構えた兵士たちがこちらに近づいてくる。 ――はぁ……やっぱりこうなるか。さて、どうする? バリアで防いで逃げるか……?
そう思案していたところで、跪いていたミリアが突然立ち上がり、王様を真っすぐに睨みつけた。
――え? ちょっ、何やってるんだよ……また大騒ぎになるんじゃ……ここ、王城だぞ? 兵の詰所じゃないんだからな?
「わたくしの婚約者を、どうなさるおつもりかしら? ラウム国王」
ミリアは氷のように冷たい声音で問いかけた。
「貴様! 無礼だぞ! 誰が発言を許したというのだ!」
王様は激高し、声を荒げる。
「わたくしも――貴方に発言の許可をした覚えはございませんわよ?」
ミリアの声はさらに冷たく鋭く、威圧感すら帯びていた。そこには一切の畏敬も遠慮もなく、まるで対等以上の者へ向けるまなざしだった。
「何を言っている、この女は……! 牢屋に放り込め! 国王に対する侮辱罪だ!」
王は怒りを露わにし、兵たちに命じた。
「よろしいのですか? わたくしに、そんなご命令をなさって……。 ――それ、自体が重罪になりますわよ?」
ミリアは口元に薄く笑みを浮かべながら、静かに言い放つ。
「……頭がどうかしているのか、コイツは! もう何を言っても聞くな!」
王は苛立ちに声を震わせ、怒鳴りつけた。
♢王の間での激変 王様は苛立ちを隠せない様子だった。 王座に座る彼の顔は紅潮し、わずかに口元が引きつっている。そのとき、跪いていた護衛の二人がすっと立ち上がり、近づいてきた兵士から鮮やかに武器を奪い取った。キンッ、キンッと金属音が響き、兵士たちの顔に驚きと困惑の色が浮かぶ。 ――って、おいおい……国王直属の兵士の武器を奪うなんて、ただじゃ済まないんじゃないのか? 俺の心臓がドクンと大きく跳ね、全身の血の気が引いていくような感覚に襲われる。「貴様ら……そんな真似をして、“冗談でした”や“間違いでした”で済むと思うな! 謀反の罪で死にたいらしいな……よし、全員捕らえて牢屋に入れておけ! 後で、処刑だ!」 王の怒号が広い王の間に響き渡る。その声は激情に震え、まるで雷鳴のようだ。直後、増援の兵士たちがなだれ込むように現れ、俺たちを取り囲んで槍を向けた。その数はあっという間に二十、三十と増えていく。「わたくしに刃を向けて……さて、どちらが“謀反”になるのかしらね? ラウム」 ミリアは一歩も退かず、王をまっすぐに見据えた。その青い瞳は一点の曇りもなく王を射抜き、その声は玉座の間に響き渡る鐘のように、あるいは氷のように冷たく響いた。その静かな、しかし有無を言わせぬ威圧感に、兵士たちの動きが一瞬止まる。「さっきから……何を言っている! 意味が分からん!」 王は明らかに混乱している。最初は怒鳴りつけていたはずの彼が、ミリアの放つ静かな威圧感に押され、声に焦りが滲みはじめている。彼の額には、すでに脂汗がにじみ出していた。 ――大丈夫なのか? ただの貴族のミリアの方が、ずっと余裕そうだけど……なんだろう、今はむしろ王様のほうが気圧されてる気がするんだけど……? この状況は、俺の常識を遥かに超えていた。「本気で、わたしに襲い掛かる気なのかしら?
そんな感じで数日間も移動をし、ついに王都の入り口へとたどり着いた。辺りは賑やかな声に包まれ、石畳の道を行き交う人々の姿が見える。やがて馬車は、堂々とした王城の前に着き、ゆっくりと止まった。長旅の終わりを告げるように、微かな振動が伝わってくる。「はぁ……長かった。」 俺は思わず息を吐いた。ここ数日間の馬車での移動は、快適な膝枕こそあったものの、検問や盗賊の襲撃といった不安要素も多く、常に気が抜けなかった。 ……とはいえ、心臓が一番跳ねたのは、ミリアのふとした仕草や言動だったかもしれない。 馬車が止まったからといって、それが目的地に着いた合図とは限らない。王都に入る時の検問や、ひどい時には盗賊の襲撃などで止められることもあると、窓の外を眺めていたミリアが教えてくれた。「ユウヤ様、王城の前に着きましたよ」 ミリアの声が、耳に心地よく響く。平民の服を着たメイドと護衛が馬車のドアを開けてくれて、ミリアの降りる手伝いをしてくれていた。その優雅な所作に、へぇ~俺もミリアと付き合うなら覚えないとだよなぁ……なんて、ぼんやり考えていた。 馬車から降りると、王城の兵士が恭しく応接室に案内をしてくれた。広々とした応接室で待っていると、すぐに声が掛かり、王の間へと案内をされた。「俺、初めてだから分からないんだけど……」 俺はミリアに小声で尋ねた。格式ばった場所に慣れていない俺は、どう振る舞えばいいか見当もつかない。「平民なのですから分からなくて当たり前ですよ」 ミリアはにこやかに答えた。その笑顔は、俺の不安を少しだけ和らげてくれる。「いや……王様だし。無礼だって言われて牢屋行きになるんじゃない?」 冗談めかして言ってみたが、心のどこかで本当にそうなる可能性も考えていた。前回の逮捕の件もあるし、貴族の常識は俺には理解できない部分が多い。「他の者と同じ様にしてれば良いと思いますよ」 ミリアはそう言って、俺の腕をそっと握りしめた。
続きは書けていますが、ただいま調整中です( ̄▽ ̄;)仕事が忙しくてぇ……編集する気力が。放置しているわけではありませんので、しばらくお待ちください✨ミリアさんのツンデレは、いかがでしょうか?たぶんツンデレさんを扱うのは初めてでして……しんぱい。お読みいただきありがとうございます(●'◡'●)
それにしても、国王からの呼び出しとは……。まあ、思い当たる節といえばポーションの件くらいしかないよな。他に何かした覚えもないし……。 「出発のご準備ですか?」 ミリアが心配そうに俺を見つめてくる。「まあね。国王様からお呼び出しだからさ」「わたくしも、ご一緒させていただきますわ」 ミリアは、まったく迷いのない声で言った。「本当に? 実は一人で行くの、ちょっと不安だったんだよな」 貴族のミリアが一緒にいてくれれば、かなり心強い。それに俺、国王との謁見の作法なんて何も知らないし……。「明日の朝、迎えの馬車が来るみたいだぞ」「へぇ~。ずいぶん高待遇ですわね……」 ミリアは少し驚いたような表情を浮かべた。「そうなの?」「ええ。国王が平民に迎えを出すなんて、かなりの特例ですわ。王国に多大な功績があったり、王命に関わる用件でない限りは、まずありえません」 やっぱり……治癒薬の件で“どうしても会いたい”ってことなんだろうな。 その夜。ベッドに座るミリアの隣に腰を下ろし、何かお礼になるものはないかと考える。言葉はもう何度も伝えているし、お金を渡そうにも興味なさそうだし…… ふと思いついて、前にとても喜んでくれた“頬へのキス”で感謝を伝えた。「いつもありがとうな、ミリア」「きゃぁ♡ はわわぁっ、わぁ……。い、いえ……はぅぅ……♡ も、もっと……ユウヤ様のお役に立てるように、ガンバりますわっ」 ミリアは顔を真っ赤に染めておろおろしながら、お休みの挨拶をして部屋を出ていった。 ……俺もそろそろ寝るかな。それにしても――ミリアの頬、やっぱり柔らかくていい感触だったなぁ。 ——王都への旅路 翌朝…… 準備を終え、いつものメンバーで店の前に集まっていると、迎えの馬車がやってきた。磨き上げられた車体はまばゆいほどに輝き、その側面には王家の紋章が堂々と刻まれている。 いつもの顔ぶれ――俺、ミリア、男女の護衛二人、それ
あ、従業員を雇えば良いんじゃないの? それで馴れてきたら店を任せれば良いじゃん。ミリアの紹介をしてくれる人なら安心できそうだし……。 お店で手伝ってくれていたミリアを呼んで相談してみた。「なぁ~ミリア、信用できるヤツに店を任せたいんだけど……良い人を紹介してくれないか?」「そうですわね……これでは、ユウヤ様と落ち着いてお話も出来ませんし……」 ミリアは少し考えるように言った。彼女と話をしていると、外が騒がしくなった。「店主は、いるか!!?」 それは、呼び声ではなく、怒鳴り声が店内に響き渡った。 うわっ、まさか初のクレームか? 傷が治らないとか? いや、そんなはずはない……。もしかして、もう偽物が出回ってるとか? それとも期限切れの品を騙されて掴まされたって話かも……? そう思いながら店の方へ出てみると、そこには騎士風の男が5人と、いかにも偉そうな貴族風の男が1人。周囲の客たちは、その異様な雰囲気に圧倒されたのか、みんな距離をとって怯えたように様子をうかがっていた。「何でしょうか?」 俺が尋ねると、貴族風の男が腕を組み、冷たい視線を向けてきた。「誰の許可を得て薬を売っているんだ?」 は? 許可……何も考えてなかった……。誰に何の許可を貰えば良いんだ? 薬師ギルド? 商業ギルド? 町長? 領主? 国王?「いえ……まだ許可は得ていません」 俺が正直に答えると、貴族風の男はニヤリと笑った。「では、違法だな……コイツを捕らえろ!」 騎士たちが剣に手をかけ、俺に近づいてくる。1日目にして閉店か? しかし、その言葉を聞いて、必要としてくれていたお客さんがキレていた。「ふざけるな! どうせ領主が金の匂いを嗅ぎつけたんだろ!」「税金とか言い出したりして、薬の値上げされたら困ります!」「まさが、薬の独占する気じゃねぇのか!?」 お客さんたちが貴族風の男に詰め寄る。その間に、不機嫌な顔をしたミリアが、懐から手紙を取り出し、偉そうなヤツに突き付けた。
護衛を見ると、目を閉じて嫌そうな表情をしていた。そりゃそうか……屋敷での護衛よりも外の方が護衛が大変だもんな。「いや。止めておいた方が良いんじゃないのか? 護衛が大変そうだし?」 俺がそう言うと、ミリアが護衛に視線を移した。「何なのですか! その表情は! お嫌でしたら付いてこなくても結構です。ふんっ!」 ミリアはご機嫌斜めになってしまい、警護が慌てた様子で言い訳を始めた。「ち、違います。少し訓練不足で体力が無くなっているようでして……少し疲れていただけです。決して嫌な訳ではありません! すみませんでした!」 警護の責任者は、顔を真っ青にして必死に弁解する。「知りませんわ。ご自由になさって結構ですわっ」 ミリアは、プイと横を向いてしまった。これも俺のせいなのか? そこまで面倒を見てられないぞ……嫌だったら付いてこな来なければ良いんじゃないの? で代わりの者を護衛に付ければ良いじゃん。それかミリアを説得すれば良いだろ。「それじゃ、俺は帰るよ」 俺はそう言って立ち上がろうとした。「どちらにお帰りに? 家は無いと仰っていましたよね?」 ミリアは、すぐに俺を呼び止めた。「あぁ~家は無いからテントで寝泊まりしてるぞ」「テントですか? それでしたら、うちに是非お越しください! 部屋も空いていますし」 ミリアは目を輝かせ、俺を誘った。「いやぁ……迷惑になるし悪いよ」「……誰の迷惑になるのですか?」 ミリアの問いかけに、俺は言葉を詰まらせた。「えっと……使用人の方達のさ……」「使用人ですか? それは使用人達のお仕事ですわっ。迷惑と思うなら仕事の放棄ですわね……ですが、うちにはその様な使用人は居ませんわよ」 ミリアの言葉に、メイ